第1話

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「ほう、それで我が娘のレティシアを嫁がせよと言うか!馬鹿なことを申すな!」

 謁見の間で、お父様――クレメンデル国国王――が隣国のアルディバイドの使者を恫喝する声が響く。

「は、しかし、我が国ではもうすでに正妃に相応しい令嬢がおらず、すでに貴国を頼るしか......。我が国には現在の王太子しかいないのです」

「当然のことを吐かすな!あの様なことをしでかせば、そうなる事もせんなきことであろう。

 それで?我が国ならば王子が4人王女が3人いるから、1人寄越せと抜かすか!属国風情が!

 愚か者め、不幸になるとわかっていてみすみす娘を嫁がせるはずがなかろう」

「しかし、その、それでは我が国が立ちいかず。どうか宗主国である貴国の姫をいただければ、流石に目を覚ましてくださるかと......」

 使者は40代後半くらいの者と10代後半くらいの者の2人いる。身なりからして騎士の様だ。喋っているのはもっぱら年配の使者で、困った様にこちらに懇願してきているが、若い方の使者はむっつりと押し黙ったまま、不快げな様子を隠さない。その若い騎士の顔を見て、私は試して良いかもしれないと思う。

「まだ言うか!お前を首だけにして国に送り返しても良いのだぞ、大概にせよ!

 アルディバイドが我が妻の身内に何をしたか理解した上での言葉か!王女が慈悲を乞うから、ひとまずは目を瞑ってやっていたものを、厚顔無恥にもそれ以上を願うか!

 勝手にお前たちだけで沈んでいけば良かろう!」

 激昂して顔を真っ赤にするお父様に私は微笑みかけ、あえておっとりと話をする。金髪に明るい緑色の瞳を持つ私の見た目は大変優しそうに見えるらしい。それを利用しておっとりと何もわからない様な顔をして話すと、大抵のものは私が柔和で優しい姫だと騙されてくれる。

「まぁ。陛下、落ち着いてくださいませ。今のままではあまりにも民が不憫でございますわ。

 それに、国・に・尽・く・す・は・王・族・の・務・め・。私の出す条件をアルディバイドが呑んでくださるのであれば、私が嫁いでもよろしいですわよ。」

「レティシア!何を愚かなことを!」

「まぁ、お父様。娘の幸せを願うのはどの様な父親も同じだとは思いますが、貴方様はクレメンデルの国王、どうか賢明なご判断を」

 両親は納得がいかない様だ。私は7人兄弟の末っ子として生まれたので、2人は私にはとても甘い。どのくらい甘いかと言うと、私には政略に関係のない結婚をしても良いというくらいである。

 年配の使者がこの機を逃してはいけないとばかりに勢いこんで口を挟む。

「ありがたき仰せですが、条件とはなんでしょうか?出来るだけ意に沿う様に致します」

「簡単なことよ。

ひとつめ、私を正妃として迎えること。

ふたつめ、嫁いだとしても、私がクレメンデルの王女であることを忘れないこと。

みっつめ、この婚約もしくは結婚が破談になるときは、それ相応の慰謝料をいただきます。慰謝料については嫁いでからのアルディバイドの態度で決めます。

よっつめ、結婚してから2年は白い結婚とすること。

いつつめ、私の身の安全のために、転送機をアルディバイドに持ち込ませること。

むっつめ、私は通信機を持ち込むつもりですが、私が母国に連絡を取る際に邪魔をしないこと。また、手紙などを出す場合、検閲なども禁じます。

ななつめ、側妃を娶ることは許しません。公娼程度なら許して差し上げましょう。けれど公娼以外の人間との性行為は認めません。

 まぁ、貴国の行いを見ればすべて当然のことですわね?」

「何を馬鹿な!アレン殿下には真実の愛を育んでおられる方がいるのだぞ!」

 私の言葉に反応したのは年若い方の使者で、事もあろうに宗主国で、許しも得ず、国王の前で立ち上がると私に言葉遣いも弁えず怒鳴ってみせたのだ。我が国の騎士たちがこの無礼者を押さえつけようと動くが、私はそれを目で制すると微笑みながら続ける。

「そうですか、王太子に真実の愛の相手がいる?それで?

 どうして私が気にしてあげる必要があるのかしら?

 我が国は一夫一妻制です、貴国がどうかまでは記憶しておりませんが、私を迎えるならば当然のことではなくて?」

 私は、お前たちみたいな小さな国の法律なんか把握する必要すらなかったが、宗主国の姫を迎え入れるつもりなら、側妃は許さないと言ってのけたのだ。

 そう、側妃と違って公娼は書いて字の如く、公式な娼婦である。とは言え、王との間に子供が生まれた場合、後の火種になることは間違いない。だから、公娼となる娘は前もって子供のできない身体にすることが条件である。

 つまり、真実の愛のお相手と別れるか、もしくはその相手を子供のできない身体にするかのどちらかを選ばせてやる、と言ったのだ。

「ならば、我が国まで恥を晒しにいらっしゃらなくても、その真実の愛の方を正妃になさると宜しいでしょう?」

 若い使者は悔しそうに唇を噛んで、こちらを睨みつけながら続ける。

「我々とてリラを王妃にしたかったが、陛下がそれを許さなかったのだ!せっかくあの毒婦を排除したと言うのに...」

 若い使者の言葉に年配の使者の顔が青くなる。そう、年配の使者はきちんと弁えているのね。それなのに、この若い使者は!どうしてこの様な愚かな使者を立てたのか。これで心は決まった。

 私は持っていた扇を思い切り若い使者の顔に叩きつけた。

「無礼者!アルディバイドは我が国に対して宣戦布告に来たのかしら?このまま開戦しても構わなくてよ!」

 私の言葉に年配の使者が若い方の使者を殴りつけると慌てて彼の頭と自分の頭を床に擦り付ける。

「誠に申し訳ございません、先程の条件について国にすぐに連絡して許可をとります。何卒、何卒ご容赦を」

「アルディバイドの誠意ある対応を求めます」

「使者、次はないぞ。開戦に関しては我が国でも一時は協議されたのだ。それをそこにいるレティシアが『民が不憫だ』と止めたのだ。次は聞かん」

 そう、私もアルディバイドが許せなかったが、それでもあの子が愛した国で、あの子が愛した民なのだ。ならば、あの子の最後の願いくらいは聞いてあげたかったのだ。

 私の出した条件で何かを悟ったのか、両親はこれ以上何も言わなかった。後でもっと綿密な打ち合わせをしようと両親を見ると満足そうに頷いていた。

 さて返事が来るまでに少しの間余裕があるのでその間に転送機の整備をしなくてはいけない。

 転送機はその名の通り、ものを遠方へ転送する機械である。この周辺国ではよく使われており、転送機ごとに周波を変えることで、色々な場面で使われている。例えば輸出入や、外交などに。もちろん旅行にも使えるが、一回使用するたびに高価な魔石を消費するために使える人間は限られている。

 転送機は設置した場所から設置した場所へと直ぐに移動することができるため、万一私があの国であの子の様に陥れられても、身を守れる様にクレメンデルとアルディバイドを結ぶものを設置させようと思っている。

 そうして2日後、私の出した条件は全て呑むとアルディバイドから連絡が来たので、私はかの国に嫁ぐことになった。

 クレメンデルからわざわざ嫁いできたことを民に知らしめるために、私は20台以上の馬車を率いてアルディバイドへ嫁入りをした。

 馬車の中では私のお付きの侍女のテティがハンカチを濡らしながら、歯噛みすると言う器用な真似をしている。

「うぅ、悔しいです。どうして私の姫様が、稀代の馬鹿王子のアルディバイドのアレンに嫁がなくていはいけないのですか。テティは反対でございます」

「まぁ、テティったら。貴女なら私のことをよく知っているでしょう?問題ないわ」

「えぇ、えぇ、姫様。貴女様が素晴らしいお方だとはこのテティが一番よく知ってますとも。

 けれど、アルディバイドのアレンと言えば、婚約者のいる王族の身で、真実の愛を見つけた!とか言って平民上がりの男爵令嬢を寵愛した結果、ライラ様を冤罪で断罪した、稀代の馬鹿ですよ。姫様がどんな目に遭わされるか......。」

 そう、アレンは王族のくせに、自分の感情を優先して、男爵令嬢を寵愛した。それでもどこかに養女に入れて側妃にする程度であればまだ許せたものを、邪魔になった婚約者を冤罪で断罪したのだ。

 しかも、断罪劇で出された証拠は『被害者の告発』だけであり、ろくすっぽ調べはしなかったのだ。しかも罪状は『未来の王太子妃を殺害しようとした』と不敬罪を適用し、処刑までしたのだ。

 処刑されたライラ・エルムント公爵令嬢は私の従妹だった。私の一つ下の彼女は少し吊り目気味で気の強そうに見える顔をしていたが、内面はおっとりとした愛らしい子で、妹の様に思っていた。私とは正反対の、純粋すぎるほどの良い子だったがそれが災いしてあいつらの策にあっさりと嵌ってしまったのだ。

 私の母はライラの父の妹であり、外交に来た父が母に一目惚れし、求婚したのだ。だから、私にはアルディバイドの血も流れている。

 私は、私の可愛いライラを殺した奴らを許すつもりはない。おそらく奴らはまた、邪魔者である私を排斥しようとしてくるだろう。そのために打てる手は全て打った。やれるものならやってみると良い。

「さぁ、テティ。そろそろ着くわ。もう一度私のお化粧をよく見て?きちんとできているかしら?」

「えぇ、姫様。とてもよく似合っておいでです」

 私の問いに、テティはしっかりと力強く頷いた。

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