第2話

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馬車が止まる、ようやくアルディバイドの王宮に着いた様だ。そしてドアが開けられ、アレンがこちらに手を伸ばしてくる。金髪碧眼の、見た目だけは王子様然とした見目麗しい青年ではある。しかし、態度は最低である。エスコートするつもりなのだろうが、苦々しい顔を隠そうともしない。

 この国の要請で正妃として来た宗主国の王女に対する顔ではない。彼の後ろには、先日我が国に来ていた、若い使者がいた。王太子の側近だったのか、道理で偉そうなはずである。しかし、その割には礼儀も作法もなってない。部下を見れば主人がわかる、所詮その程度の主人なのだろう。ライラ、貴女こんなののどこがよかったの?政略結婚とは言えライラはアレンを愛していた。

 私はにっこり微笑んで、アレンにエスコートをされるべく手を伸ばす。そして馬車から降りた私の顔を見た途端、アレンは大きな声で叫んだ。

「貴様生きていたのか!この化け物め、ナーダ、斬れ!」

 その言葉に若い使者が剣を抜いて、こちらに向かう。そう、この若い使者がナーダだったの。まだ手元に関係人物の書類が届いてなかったから顔までは知らなかったけど、名前だけは知っている。ライラを断罪した一人だ。

 ナーダの剣が私に届く前に護衛の騎士たちが私を守ってくれる。

「無礼な!我が国の姫様に剣を向けるなど、どうやらよほどこの国は我が国に喧嘩を売りたい様だな。」

 護衛の騎士たちの班長であるサムエルが大声を出す。慌てて国王夫妻がやってきて、この事態に顔を青くして私に謝罪しようとしてこちらを向いて硬直する。

「ライラ...」

 ぽつりと呟いたのは国王だったか、王妃だったのか集まった人間は呆然と私を見た。

 そう、私とライラは背格好や雰囲気も似ていたし、本来垂れ目の私がつり目に見える様に化粧すれば、そっくりに見えるのだ。しかも今日は彼女とお揃いで作ったドレスを着てきている。

「はじめまして、国王陛下、妃殿下。クレメンデルのレティシアでございます。 

 早速とんでもない歓迎をしてくださいましたが、どの様なおつもりでしょうか?

 私を人質にでも取って我が国に宣戦布告でもなさるおつもり?構いませんけどその場合、この国には人の子一人、草一本も残しませんわよ?」

「申し訳ない、レティシア殿下。貴国に喧嘩を売るつもりなどは、全くない。この通り、申し訳なかった。」

 国王夫妻は私に深々と頭を下げる。そう、国王夫妻にも周りの人間にもどちらが上か教えてあげなくてはね?

「父上、その様な女に頭を下げる必要などありません。その女はレティシア殿下などではありません、あの忌々しい悪女のライラです。」

 その言葉に頭にきて睨みつけると、国王自身がアレンを殴り飛ばした。

「愚かなことを抜かすな、この方は宗主国からお見えになったレティシア殿下で間違いない。そもそもライラはお前がわしらが居ぬ間に冤罪で処刑してしまっただろうが!

 それなのに悪女とは、今すぐ謝罪しろ!」

「謝罪...?何故ですか、ライラが悪女と言うことに関しては私は謝るつもりはありません。可憐で、美しく、儚い妖精の様なリラがそう言うのです、きっと調査が間違っていたに違いないと思っていますよ。」

「なんて愚かなこと、子育てを間違えられましたわね。この様な愚かな王子に国を治めることができますの?ため息しか出ませんわね。

 私は正真正銘のレティシアです、ご覧なさいな。」

 そう言って私は我が国の王族だけが持つ指輪をアレンに見せる。彼はさっと顔色を悪くするが、謝る気はないらしい。

「私はライラの従姉でもありますのよ、アレン。

 彼女が冤罪であったことは先程国王が言った通り、証明されているはずですわね?我が国でも調べましたもの。まさか、あなたは我が国の調査についても疑いを持つおつもり?

 よくもまぁ、国王でもないのに、裁判もなしに公爵令嬢を殺せたものですわね?彼女は私の母の姪、我が国でも愛されている令嬢でしたのに。

 謝罪もなく悪女呼ばわり。あなたも、あなたの従者もとても失礼ですわ。よほど、我が国の機嫌を損ねたいらしいですわね?」

 私の言葉にアレンの顔色はだんだん悪くなっていく。そして、小さな声で謝罪する、と言った。

「ほほほ、まさかその程度で許せるとお思いかしら?額付いて謝罪なさい。」

「私は王太子だぞ?どうしてその様な屈辱的なことをせねばならんのだ!」

「まぁ、王太子という責任ある立場にも関わらず、その様な愚かなことを言うからでしょう。早くなさい、それとも我が国に思うことがお有りで?」

 私の言葉にアレンは顔を青くするが、動こうとしない。アレンの後ろからぬっと現れた大柄な20代後半ほどの騎士が、アレンを殴ると無理やり頭を押さえつける。そして額付いた格好になっても何も言わないアレンの頭を無理やり締め上げたのだろう。それに耐えかねて、「申し訳...ありませんでした」とアレンはようやく謝罪した。やれやれ、先が長いこと。

「えぇ、ライラを悪女呼ばわりした件に関しては今回だけは、謝罪を受け入れましょう。

 けれど、ナーダは許しません。未来の王太子妃を殺害しようとしたんですもの、当然死刑ですわね。」

 私の言葉に王太子とナーダの顔色が青を通り越して白くなる。ナーダはさすがに自国の王の前にいるからか、発言する様な真似はしなかった。

「いや、ナーダは私の言葉に従っただけで...。」

「あら、ではアレンが死刑ですか?あなた方の判決では、未来の王太子妃の殺害未遂は死刑でしょう?しかも階段から突き落としたとか落としてないとか証拠も何もはっきりしてない状況にも関わらず、ライラを殺したんですもの。

 今は証人もたくさんいるところで剣で斬りかかってきたのですよ?言い逃れのしようもありませんわね。

 で、どちらが死刑になるんですの?」

「いや、今回は私が判断を誤ったのだ、どうかナーダを...。」

「わかりました、ではアレンが責任を取って死刑になるんですのね、国王陛下、すぐに手配を。明日の昼には執行しましょう。もちろん、執行まではライラがそうだった様に、貴賓牢ではなく、一般の囚人が入る地下牢に入れてくださいませね。あと、あの子がされた様に公開処刑になさってね?」

「待ってくれ、私はこの国の唯一の王子だ。こんなことで死ぬわけにはいかない。」

「そうですか、ではナーダに命じると良いでしょう『私のために死んでくれ』と。

 もちろん、未来の王太子妃で、その上宗主国の王女に斬りかかったんですもの、本人だけの罪では済みませんわね。一族郎党斬首の上、お家は取りつぶしが妥当かしら。

 そもそも、その男は宗主国である我が国の親愛なる国王陛下の前で許しも得ず立ち上がり、私を罵倒し、あまつさえライラを悪女呼ばわりしたんですもの。あの時に無礼うちされなかったのは私の慈悲でしたのよ?まぁ、どうやら裏目に出た様ですけど。

 あの時に無礼うちで死んでおいた方が宜しかったですわね?それでしたら、身内まで巻き込まずに済みましたもの。」

 ナーダの顔色がどんどん悪くなるが、彼は一言もアレンに「お命じください。」と言わない。さすがあの主人の部下である。私に斬りかかってきたこともだが、何より我が国でライラを貶める発言をした彼は許す気がなかった。来た早々手間が省けたものである。

 アレンは青くなった顔で下手に出ながら懇願してくる。

「レティシア殿下、どうかどうか今回ばかりは...私と彼のことを慮ってはいただけないだろうか?ナーダには小さな弟も、結婚を控えた姉もいるんだ。」

「あら。どうして私が気にしてあげる必要があるのかしら?

 そう思うなら、あなたが代わって差し上げなさいな。私はどちらでも良いんだもの。

 死刑の執行は明日の昼よ。アレン1人か、ナーダの一族か、どちらでも構わないわ。」

 私はそう言って国王の側で青い顔をしている宰相に目を向ける。

「どちらが死刑になったのか、報告に来なさい。もし明日の昼までに死刑が執り行われない場合は、今回のことをクレメンデル国王に知らせます。きっと開戦になるでしょうね?

 あぁ、もちろん私を殺してご覧なさいな。きっとひと月後にはここは灰燼と化しているでしょう。その時はアレンもナーダも助かってないでしょうからそれでもよくってよ。」

 そう言った後青くなる周囲を尻目に私の部屋まで案内なさい、と侍女長と思しき女に声をかけた。

 翌日の午後、宰相が青い顔をしてやってきて「ナーダの一族を処刑しました。」と伝えてきた。

 私は紅茶を飲みながら、「あら、そう。」と答える。今日の私はライラに似せた化粧法でなく、いつもの通りの顔をしている。宰相は少し驚いた様だった。

「それで、証拠は?」

「証拠...でございますか?それは用意しておりません。」

「なぜ、終わった後に来たのかしら、と私が不審に思うと思わなかったの?」

「いえ、あのきちんと処・刑・は・執・行・いたしました。」

「いいわ、死体を見に行きます。もちろん王族を手にかけようとしたのですもの。墓には入れないし、当分は晒し首ですわよね?

 さあ、案内なさい。」

 宰相は青い顔で馬車を用意させると、私を首置き場に案内した。

 私はお付きの騎士から、昨夜届いたばかりのリストを預かるとそれと首をひとつひとつ見比べる。

「私に嘘をつきましたわね、舐められたものですわ。」

 そう言うなり、宰相は平伏して「お許しください。」と泣き出した。

 国王夫妻と王太子を呼ぶ様に宰相の側仕えに言いつけると、程なくしてやってきた彼らは昨日よりもさらに顔色が悪かった。

「ナーダの一族を処刑したと聞いて、検分に来ましたが、よくもまぁ私を騙してくれたものですわね?」

 そう言って3人の前にリストをばさりと置く。これはナーダの一族について書かれている書類で、写真までついている。

「ここにある首は誰1人として、ナーダの一族のものではありませんわね?いったいどこの誰を処刑したのですか。罪人ではありませんわよね、だってナーダの一族の人間とピッタリ一致する年頃の娘や子供まで都合よく死刑囚として、いるはずありませんもの。

 これがこの国のやり方ですの?」

 何も言わない国王一家に代わり宰相がブルブルと震えながら口にする。

「近隣の民を...。」

「でしょうね。国民を守るべき騎士が守るべき民を身代わりにするなんて...。

 私が本当にあなた方任せで確認しないと思いましたの?結局信頼できないことを証明してくれただけでしたわね。」

 国王夫妻が青くなりつつも懇願してきた。

「ナーダは騎士団長の子息で一族郎党と言われると騎士団長まで処刑しなければならないのだ、レティシア姫、どうかどうか。」

「それを私を欺こうとする前か、もしくは無辜の民を処刑する前に言っていただけたなら、離籍することを許したでしょう。

 けれどもう許せません。王族とは舐められたら終わりなのですよ、陛下、妃殿下。

 彼の一族すべてを処刑できないなら、今目の前にいるアレンでも構いませんわ。」

「すぐにナーダの......、ハンフル一族を捕らえよ...。」

 国王は騎士たちに伝える。「はっ。」と一言、言うと騎士たちは半数を残し、もう半数がこの場から去る。

「それから、騎士団長の一族を助けるために、無辜の民を代わりに処刑したことを公表した上で、明日ナーダたちの処刑を執行なさい。」

「まさか!その様なことは公表できませぬ。民の信頼がなくなってしまいます。」

「そうでしょうね、けれどそれを実行したのはあなたたちでしょう?

 どうして私が気にしてあげる必要があるのかしら?」

 私の言葉に王は膝をつき、王太子は肩を落とし、俯く。王妃も頭を抱えて十字を切った。

「すぐに、処刑をいたします...。」

「いいえ、だめよ。きちんと罪人が過ごす一般牢に一晩入れて、明日になってから処刑なさい。」

「お待ちください、そんなことをしたら騎士団長の一族です。罪人たちや牢番に何をされるか...!」

「ライラも、そうでしたでしょう?」

 私の言葉に、国王一家も宰相も騎士たちも黙る。そんな彼らに向かって私は言葉を続ける。

「本来なら任せようと思いましたが、私も処刑に立ち会います。明日は、案内なさい。」

「そんな、処刑に立ち会うなんて残酷なことをよくできるものですね、レティシア殿下。」

 私の方を振り向いて皮肉げにアレンは言う。

「あら、ライラの処刑の時にあなたのリラも立ち会っていたじゃないの。彼女も残酷なのかしら?」

 そこまで知られていると思ってなかったのか、それともリラとやらと一緒に見たことを忘れていたのか、アレンは口をはくはくさせる。

「それにしても、一族郎党など酷い真似を...。」

「あら、では今殺されている無辜の民は?酷いことではないの?あなたが命令したことでしょう?

 それに、そこまで気にされるなら、あなたが代わってあげれば良いじゃないの。ナーダの一族30人とあなた1人の命でしょう?酷いというなら、あなたが刑場にお行きなさいな。

 彼を殺すのは私ではなくて、あなたよ。

誤った命令を与えたのに我が身可愛さにあなたが、彼ら一族を見放したのよ。」

「少し誤解しただけで、酷い選択肢を提示したのは貴女だ。」

「あら、私はあなた方のやり方に倣っただけよ、未来の王太子妃を殺そうとしたんだもの。残念ながら、私が宗主国の王女であることを忘れた愚かな主君のせいで被害が広がったわね?」

「やめなさい、アレン、レティシア姫の仰る通りよ...。」

 王妃の力ない言葉にアレンは膝をついた。

 ナーダの一族は昨夜のうちに国を出ていればよかったものを、持っていく荷物をまとめるのに時間がかかったそうだ。今晩国外へ脱出するつもりだった様で、こっそり馬車に乗って夜を待つ彼らを捕まえることは簡単だったらしい。

 翌日、私は刑場に赴いた。私が言った通りに、自らが助かるために無辜の民を処刑したと発表されていたため、民たちからは大きな罵倒を受けながら、ナーダの一族は処刑場まで連行された。彼らは国民たちから罵倒され、石を投げられながら、片端から処刑されていった。

「殿下、殿下、俺は殿下の命令に従っただけです。お助けください。」

 そう言って涙と鼻水を垂らして泣くナーダをアレンは目を逸らして見捨てた。

 彼の首がころりと落ちるがあまり胸が空く思いはしなかった。やはり大本を断たないといけないだろうと思う。けれど、これで彼らから武力を奪うことができた。

 代わりに処刑される可能性があると分かった民も、残された騎士団も、騎士団長を見捨てた王族に不信感を覚えるだろう。さてこれでもっともっと動きやすくなった。

 私は嫣然と微笑んだ。

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