第2話

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終わった......と思っていたはずなのだが、翌日王宮から急ぎの馬車が私を訪ねてやってきた。

「殿下の新しい、お相手様のことでお呼びです!」

「娘は今熱を出しておりますの。とても動かせる状態ではありませんわ。それに殿下に新しいお相手がいることは昨日知ったばかりですし、娘はなんのお役にも立てないと思いますけれど...?」

 母がそう言って使者を断ろうとしていくれているが、使者は『なんとしても王城に来て欲しい』と繰り返している。

 ここで初めて私はぞっとした。病院のベッドの上で、童話からネット小説まで色々なものを読んだ。その中に異世界転生ものがいくつかあり、『ゲームやお話の中で悪役』と言われた人間は悪事を働いていなくても、予期せずーーゲーム補正という名の断罪がある、と書いてなかっただろうか?

 私は乙女ゲームなるものをしたことがないが、ネット小説によると一般的に、王子様と主人公の恋路の邪魔をする人が『悪役令嬢』と呼ばれるらしい。と言うことは、もしかしてこれはどこかの『ゲームかお話の中の世界』で、私は悪役令嬢で何もしてないけれど、ゲーム補正とやらで断罪されようとしているのかもしれない。

 怖くてぶるぶると震えるが、こうやって王宮に呼ばれている以上、もう手遅れなんだろう。

 あまりにも使者が執拗に迫るため、母は家族全員と主治医のサンディー先生を同席させてくれるなら行っても良い、と渋々了承した様だった。母が急いで私の部屋に飛び込んでくる。

「聞こえていたと思うのだけど、国王夫妻が、ディーを呼んでいるらしいの。決して悪い様にはしないし、礼儀も何も気にしなくて良いらしいから、貴女はあったかくしてちょうだい。なんなら毛布を被って歩いてもいいから。とにかくあったかくね。私も急いで着替えてくるわ。

 ロナルド、王宮に行って急いで、あの人とリカルドにも伝えてちょうだい。

 誰か、サンディー先生も呼んで。」

 母に指示されたメイドはとにかく私をあったかい服で包んだ。馬車で王宮に向かう間も、ともかく恐ろしかった。できるだけ家族に迷惑をかけない様にしないといけないと思うが、震えが止まらない。

 ぶるぶると震える私にサンディー先生は寒いと思ったのか、母の言葉通りに毛布を私にかけてくれた。毛布のあまりの暖かさに泣きたくなる。もうこのままずっと毛布を被っていたい。けれど、毛布姿のままで登場したら、皆びっくりするだろうな、と私は現実逃避をしていた。

 王宮についても震えて歩けない私を毛布に包んだままで、サンディー先生がお姫様抱きで運んでくれた。こんな型破りの姿で王宮を歩いているのに、誰も非難の目は向けない。それどころか使者も周りの侍女も女官も心なしか顔色が悪い。何が起こったのだろうか。もう私は一生王宮に足を踏み入れないと思っていたのに......。

 私はそのまま、王家の私室と言える奥まった部屋に案内された。そこには国王夫妻と殿下とお父様とお兄様、護衛と従者達、そして何・か・大・き・な・箱・が置かれていた。殿下以外、皆一様に顔色が悪い。

 私が入るなり、陛下も妃殿下もほっとした顔で駆け寄ってきた。反面、殿下は一瞬だけ不快そうな顔をしたが、すぐにいつも通りの笑顔を見せてくれる。

「よく来てくれた、ディアーナ嬢。」

「本当によく来てくれましたわ、もう私たちはあなたに縋るしかなくて......」

「ごきげんよう、陛下、妃殿下、殿下。この様な格好で失礼いたします。」

 サンディー先生の腕の中の毛布の中から声をかけるという、たいへん失礼な私をお二人は全く気にせず、歓迎してくれている。いつもとあまりにも対応が違うのでたいへん戸惑う。

「やぁ、ディー。早速婚約解消してくれたみたいでありがとう。父と母がどうしても君を呼ぶと言って聞かなくて。すまないね、体調が悪いのに。」

 断罪かと怯えたが、陛下も妃殿下もいつになく友好的だし、殿下もいつも通りである。断罪ではなかったのだろうか。少し安心したので、身体の震えが止まる。

 このままだと失礼にあたるだろうから、サンディー先生に降ろしてくださる様にお願いすると、少し渋った後にそっと降ろしてくれた。

「発言の許可をいただけますでしょうか?」

 私は遅ればせながらも、カーテシーをして、陛下に問う。

「何を言う、将来の娘だ。その様に他人行儀でなくても問題ない。」

「そうよ、ディアーナ。私たち未来の親子じゃないの、そんな他人行儀な。」

「あの、失礼ながら殿下と私との婚約は昨日付けで解消されております。」

「「いやいや、そこをなんとか」」

 国王夫妻が声を合わせて懇願してくることにとても驚く。そこをなんとかも何もすでに手続きは終わっているので、なんともならないだろう。一体何があったのだろうか。殿下の新しいご婚約者様はそんなに問題があるお方なのだろうか。

「でも、ディー。君に彼女を紹介できて嬉しく思うよ。紹介しよう、彼女が僕の生涯の伴侶だ。」

 殿下はそう言うが、この部屋には国王夫妻と殿下、私の家族とサンディー先生と護衛と従者しかいない。首を傾げる私を殿下は部屋の中央にある、大きな箱のところまで、エスコートしてくれる。

 あれ?この大きな箱って...。

 箱の中はたくさんの花と顔色の悪い女性が収まっていた。その女性は黒い髪に真っ白な肌、そして顔色に反比例した真っ赤な唇をしていた。

 本 物 き た !

 この大きな箱って棺桶じゃないか!なんで、すぐに気づかないの、私!断罪の恐怖ゆえに、思考が鈍っていたのだろうか、落ち着いてみたら部屋の中央の大きな箱は棺桶以外のなにものでもない。

「実は、隣国を訪ねた帰りに『姫が毒を飲んで起きなくなってしまった』と嘆き悲しむ7人の従者がいてね、その棺桶の中を覗いたら彼女がいたんだ。実に美しい人だろう?頼み込んで譲ってもらったんだ。」

「いいこと、リアム。いくら美しくても彼女は死んでるの、それは死体よ。死人と結婚なんて我が国ではできませんからね!」

 驚いて言葉も出ない私に王妃様が甲高い声で叫ぶ。

「ははは、母上は面白い事を仰る。死人と結婚できる国なんて、聞いたことない。きっとどこにもありませんよ?

 彼女は眠っているだけです。だって従者達は『起きなくなってしまった』って言ってましたからね。」

「いやいや、毒を飲んだのだろう?『死んだ』と口にしたくないから、『起きなくなった』と言い換えているだけだろう。その顔色の悪さを見てみなさい。」

「あぁ、大丈夫です、ディーも体調が悪い時はこんな顔色をしていました。」

 殿下の言葉に驚く。流石に私はこんなに顔色悪い時はありませんよ?

 殿下はうっとりとした顔で棺の中の白雪姫をとても嬉しそうに見つめる、なるほど、白雪姫にいずれ会うから誰とも婚約してなかったのか。けれど名前が似ているパチモノが近くにあったから間違えて婚約したけど、軌道修正したと言うことか。

 陛下と妃殿下は慌てているが、白雪姫はあれである。喉に林檎が詰まっているだけだから、吐かせればいいだけ............え?あれ?待って。彼が帰ってきたのは一昨日。婚約解消が昨日。2日以上も経ってたら、窒息死してない?

 いやいや、童話でも日数は気にしてなかった、きっと気にしたら負けだ。ちょっと身体を起こして背中をぽんぽんと叩いたら口から林檎がぽろり、と。

 私が彼女を触ろうとした手をそっと止める人がいた。サンディー先生だ。

 失礼、と言うと彼は棺桶の中を覗き込み、彼女の手を取ると、脈を測る。そして口元に手を置き、最後に胸に顔を寄せる、

「無礼な!僕の生涯の伴侶に何をする!」

 そう言って掴みかかろうとする殿下をお兄様が押し留める。お兄様は騎士団に所属していて、実は結構強いので、難なく殿下をお止めしている。

「残念ながら、確かにお亡くなりになっております。」

 サンディー先生は静かにそう告げた。

「あの、サンディー先生、彼女は喉にリン......異物が詰まっているだけなので、こう、起こしてぽんぽんとしたら...」

 サンディー先生はかわいそうな生き物を見る目でこちらを見てくる。いや、たしかに私も『白雪姫』を知らなかったら何言ってんの?って思いますけど、これは本当にそうなんです。

「あの、案ずるは産むがやすし、と言うか、物は試しというか、やってみても良いですか?」

 わたしの言葉にサンディー先生はクビを横に振る。

「遺体には、細菌が付いていることがあります。お勧めしかねます。」

「えぇと、でもですね。」

 どう言えば納得してもらえるだろうか、彼女はまだ生きているはずなのだ。窒息死とかは考えない方向で!

 私の言葉に殿下のお付きの従者達がぶるぶると震え始める。

「死因はわかりますかな、サンディー先生?」

 お父様の質問にサンディー先生は答える。

「解剖してないので、正確にはわかりかねますが、おそらく扼殺ですね。」

「や・くさつ?ど・くさつでなくて?」

 サンディー先生の言葉に驚く。やくさつってなんだっけ?聞いたことある。聞いたことあるはずだけど、頭の処理が追いつかない。

「えぇ、扼殺...つまり誰かに首をしめられて殺されています。」

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