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106ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
僕には言えなかったよ。それ以上の関係にはなれないって」
友達から始めて欲しいと言ったみーちゃん。
ひらた一
その先には、当然発展があって、恋人になっていくことを望んでいる。
しかし平田にその気がない以上それは望めない。
そして無意味に明言を避けて引っ張ることも、みーちゃんのためにはならない。
そういうことなんだろう。
これが相談内容か。平田は迷っている。
「改めてハッキリ言うべきだって分かってる。だけど、難しいね」
彼女を傷つけずに、されど悟らせることの難しさ。
「矛盾――してるんだろうな。きっと」
「そうだね」
心優しい平田だからこそ、常にこうして苦難に巻き込まれる。
「けどそれは、今現在の話だろ? この先はどうなるか分からないんじゃないか?」
恋愛感情なんてものは、自分でコントロールできるものじゃないだろう。
ふとした瞬間、スイッチが入るものだ。
……恐らく。
「確かにそれは、可能性としての話なら分からない。でも……」
平田なりに、みーちゃんとの関係性が発展することは見えないということだろうか。
外見や性格など、特に不満に挙げるような部分はなさそうだが。
もちろん恋愛はそんな部分だけじゃ計れないことも沢山ある。
107ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
「多分、断言に近い形で無いと思うんだ」
分からないとしつつも、平田なりに答えを強く持っているようだ。
それなら、オレから言ってやれることは1つだろう。
「ハッキリ言うべきだ。みーちゃんが前に進むことを望んできたんだからな」
オレは平田の目を見てそう言った。
答えを保留にするということは、みーちゃんにも待ちを強いることになる。
それなら、早いうちにハッキリさせてやった方がいい。
その上でみーちゃんが平田を想い続けるのなら、それは自由だ。
しかし平田の目が一度逃げる。
「……彼女が、傷つくとしても?」
「答えが分かっているのに先延ばしにする方が相手を傷つける。そうだろ?」
もう一度、オレは平田の目を見て言った。
平田は目を合わせたものの、またすぐにどこか違う方向へと視線を逸らす。
「う、うん。そうだね。その通りだ……」
自分に言い聞かせるように、平田は二度三度と頷きを繰り返す。
そして改めて結論に辿り着く。
あやのこうじ
「綾小路くんに相談して良かったよ。これで僕も勇気を持てた。相手が傷つくことを覚悟
108ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
たと
「多分、断言に近い形で無いと思うんだ」
分からないとしつつも、平田なりに答えを強く持っているようだ。
それなら、オレから言ってやれることは1つだろう。
「ハッキリ言うべきだ。みーちゃんが前に進むことを望んできたんだからな」
オレは平田の目を見てそう言った。
答えを保留にするということは、みーちゃんにも待ちを強いることになる。
それなら、早いうちにハッキリさせてやった方がいい。
その上でみーちゃんが平田を想い続けるのなら、それは自由だ。
しかし平田の目が一度逃げる。
「……彼女が、傷つくとしても?」
「答えが分かっているのに先延ばしにする方が相手を傷つける。そうだろ?」
もう一度、オレは平田の目を見て言った。
平田は目を合わせたものの、またすぐにどこか違う方向へと視線を逸らす。
「う、うん。そうだね。その通りだ……」
自分に言い聞かせるように、平田は二度三度と頷きを繰り返す。
そして改めて結論に辿り着く。
あやのこうじ
「綾小路くんに相談して良かったよ。これで僕も勇気を持てた。相手が傷つくことを覚悟
108ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
たと
ひらた
てんびん」
しないことは、ただ逃げてることになるよね」
また、1つの答えを得ることに成功したようだ。
「ちゃんと言えるか?」
「正しい考え方かどうかは分からないけれど、どちらの方が傷つく行為なのかが分かった
からね」
平田は天秤にかけた。
黙っていることと、素直に伝えること。
そして後者がみーちゃんのためになると理解して迷いが消えた。
以前なら悩み続けて答えを出すのに時間がかかっただろう。
『相手を傷つけずに済む』という選択肢を模索し続け、思考と感情は迷宮入りしていたは
ずだ。
悩みの解決から少しして、平田はまだ何かを言いたそうな雰囲気を残していた。
「どうした?」
こちらから聞いてみる。
「あの。その……今度から……清隆くん、ってこれから呼んでもいいかな」
「え?」
何を言うかと思えば、まさに斜め上の言葉だった。
もさく
きよたか
109ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
かいだく
ようすけ
みようじ
「僕のことも、その、良かったら下の名前で呼んでくれたら……なって」
それは、友情が一歩先に進んだということでいいのだろうか。
かつて啓誠や明人、波瑠加や愛里との関係が一歩進んだように。
「もちろん平田がいいなら」
そう快諾すると、平田は心底嬉しそうに溢れんばかりの笑みを見せた。
「本当に? いいの?」
「下の名前で呼ぶだけの話だろ? 平田にしたら、いや洋介にしたら珍しいことでもない
んじゃないか?」
普段男女問わず苗字で呼んでいる印象だが、けして珍しいことじゃないはず。
「確かに、あの事件までは僕にとっては珍しいことじゃなかったかな」
あの事件とは、平田の中学時代に起こった親友の虐め、そしてその自殺未遂のことだ。
「どうしてもアレ以来……人と距離を詰めていくのが怖くて。僕は誰とでも平等に接する
※ 代わりに、大切な人を作らないようにしてきたんだ」
あれから2年ほど経っているが、その間は苗字だけで呼んでいたらしい。
言われてみれば、平田はどんな生徒に対しても等しい扱いをしていた。
それこそクラスから満場一致で追い出されることになった山内に対しても。
どうやらまた1つ、そして今度は自分からその殻を破ったらしい。
110ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
・やまうち一
きよたか
多くの生徒がこの1年間で成長を見せる中、平田の飛躍はかなり大きなものだ。
「だから本当に感謝してるんだ。……清隆くん」
逸らされていた視線が戻ってきた。何かを伝えようとしている、そんな目だった。
「何となくテレるな。そこまで感謝されると」
むず痒い感覚に襲われながらも、素直に思ったことだ。
111 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
Oデートひより
つつが
卒業式、そして終業式も志なく無事に終わり、ついに春休みに入った。
学生たちは競争を忘れ、つかの間の休みを得ることになった。
在校生たちは、当然敷地内から出ることは許されないが、特別不便を感じることはな
い。
1112 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
その大きな一因を担っているのがケヤキモールの存在だ。学校で働く関係者だけでな
く、生徒たちにとっても欠かせない。
もはや説明不要だが、カフェ、家電量販店、カラオケなど必要なものは
る。
またどうしても手に入れたい物は、申請、許可を経て通販を利用することも認められて
いる。
自分の持つプライベートポイントの許す範囲で、自由気ままな生活を送ることだろう。
幸い今年の1年生たちは、どこのクラスもひもじい思いをすることはない。
最下位であるDクラスですら、4月1日には数万円のお小遣いが振り込まれる。
* 全国高校生の平均お小遣い金額から考えれば、それがどれだけ過ぎたる額であるか一目
くし だ
うせん
瞭然。
しかし、中には面倒な事情を持つ生徒も少なくはない。
かくいうオレもその1人だ。
クラスメイトの櫛田との契約で、オレは収入の半分を彼女に提供する約束をしている。
当初は思惑あってのものだったが、それも今や少し事情が変わり始めていた。
櫛田との契約、いや本人との関係をどうしていくかは、この春休み中に決めよう。
こちらの予定通りに進めるのか、それとも違う選択を選ぶのか。
その選択権を有しているのはもはやオレではなくなった。
まあ、春休みは始まったばかり。
慌てる必要はない。
オレは私服に袖を通し、出かける準備を済ませる。
春休みの大半はのんびり部屋で過ごすつもりだが、今日はある人物とのちょっとした約
束があるからだ。
連絡が来るまでもう少し時間がかかると思ったが意外に早かったな。
その人物からのコンタクトを受け、オレはもう1人にも連絡をする。
「最終確認、だな」
春休み初日ということもあり、色々と調整は必要だったが問題はない。
113 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
今日のコンタクトは、非常に重要な意味を持つ。
それは今日のためではなく、春休み終盤のある日のため。
・あやのこうじ
日差しも暖かくなり始めた3月の下旬。
各所で桜の開花が発表され始めた時期、間もなく桜も満開を迎えるだろう。
予定よりも早い集合時間にもかかわらず、その生徒は既に待機していた。
「こんにちは、綾 小路くん」
私服姿が新鮮なひよりとケヤキモールの前で合流する。
「早いんだな」
「呼び出しておいて、お待たせするわけにはいかないですから」
そう言ってひよりは軽く微笑む。
「今日は突然のお誘いでごめんなさい」
「どうせ春休みの予定は何も埋まってない。気にしないでくれ。それでー」
「昨日、やっと図書館に新しい本が入荷しまして」
手にしていた鞄を見せてきて、もう一度微笑む。
ほほえ
114ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
かばん
今度は先ほどよりも嬉しそうに。
1年Cクラス、椎名ひよりは誰よりも本を愛する読書少女だからだ。
「1日も早く、綾小路くんとは情報の共有をと思ったんです」
オレやひよりが愛読する人物の本は、コンビニやモールの本屋では手に入りにくい。
電子書籍にもなっていないため、取り寄せるしかない。
115 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
116 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
個人で取り寄せても良いのだろうが、図書室ならより多くの人の目に触れる。
こうして、誰かと1冊の本について語り合えることをとても大切にしている。
「思ったより多いな」
カフェのテーブル席は、生徒たちで埋め尽くされていた。
流石は春休み。時間帯によっては、大混雑だな。
幸いにもカウンター席の方は並びが空いているようだったので、そちらに向かう。
「こうしてお休みの日にお会いする機会は中々ないので、新鮮ですね」
ほとん
私服姿のひょり。確かにオレたちが休日に会うことは殆どない。
「確かにそうかも知れないな」
どこか新鮮な気持ちを両者が抱きながら、そんなことを口にし合う。
「早速なんですが……何冊かお持ちしたので見てもらえますか?」
そう言って嬉しそうに本を取り出そうとする。
しかしその直前、手を止めて思い出したように顔を上げた。
「そうでした。本のことで話を弾ませる前に、少しよろしいですか?」
何か話をしてこようとしていたそのタイミングで、後ろから大きめの声が聞こえてく
る。
117 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
「クッソー。やっぱ混んでるなー。テーブル席空いてないのかよ」
そば
カフェの混雑状況を嘆くよう 染みのある声がすぐ傍まで近づいてきた。
「ここでいいよな?」
「うんいいけど」
まったりとした時間が流れていた中、入れ替わりで別の生徒が2人オレの隣に座る。
その男女の声にオレが視線を向けると、クラスメイトの池と篠原だった。
何か話の途中だったようで、こちらに気付くこともなく話を続けている。
ちょっと前に2人の距離が縮まっている様子はあったが、依然継続中のようだ。
「確か……池くんと篠原さん、でしたっけ」
耳打ちほどの距離ではないが、池たちに気取られない程度の声量で聞いてくる。
「よく覚えてるな」
「1年も経ちましたから。私も随分と他クラスの生徒にも詳しくなったんです」
自慢するようにひよりが目を輝かせる。
何となくオレたちは黙り込み、池と篠原の会話に少しだけ耳を傾けてみた。
「毎月の給料、また3万切る状態に戻ったよな」
「仕方ないじゃない。Aクラス相手じゃ、私たちに勝ち目なんてないんだし」
「そうかもしんないけどさー。結局来月からDクラスに逆戻りだろ? だせーっ」
学年末試験で負けたことを思い出したのか、池が一度頭を掻きむしる。
「けどま……負けた原因は分かってんだよな」
「何よ、誰のせい?」
118ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
司令塔だったオレの名前を出すのか、一瞬そう思ったが……。
「俺だよ、俺」
話を聞いていた篠原が目を丸くするような、驚く発言をする。
「いや、正確には俺も負けた原因の1人、って感じだけどさ。ハッキリ言って、クラ スが
もっと一丸となって取り組んでたら勝てたんじゃないかと思って。確かにAクラスは強え
けどさ、それでも結構善戦したじゃん」
「ま、まぁそうだけど。池がそんなこと言うなんて意外も意外ね」
「呼び捨てすんなよ篠原」
「あんただって私を呼び捨てにしてるんだからお相子でしょ」
時々、無駄話を織り交ぜながらも学年末を振り返り続ける。
「2年生になったら、俺もっと頑張ろうと思って。勉強もスポーツもさ」
「へー、ほーん? あんたに、有言実行できるとは思えないけど?」
「そりゃすぐに完璧には無理だって。けど、マジでやろうと思ってる」
その言葉には単なる思いつきだけではないものが含まれていそうだった。
くけど、なんで?」
「……健と春樹だよ」
少し前まで、オレたちのクラスでは3バカと呼ばれていた仲の良い友達たち。

「一応聞
119 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
はるき
入学当初はオレもそのグループと距離が近かったが、やがて離れていったのを思い出
す。
正確には、弾きだされていったというべきだが。
「健のヤツ似合わない癖に、ここ最近勉強ばっかりしてるだろ? 授業なんか真面目に受
けてて。ポーズだけだと思ったのに、マジで頭良くなってきてるっていうか」
「成績上がってるっぽいもんね」
「そうなんだよ。マジで少しずつ成績も上がってきてるし、スポーツは超得意だろ。なん
か俺が勝ってるところなんか何一つないような気がしてさ」
「勉強では池の方が上だったもんね」
今の須藤と池なら、勉強でもスポーツでも高確率で須藤が勝つ。
「多分あいつ……来年はもっともっと伸びてる」
大切な仲間の成長を喜ぶ半面、置いて行かれることに対する恐怖を覚えたようだ。
そしてその恐怖を植え付けたもっとも大きな要因は……。
「このままじゃ、次の退学候補は俺かも」
「池……」
クラスで下位の生徒ほど、退学と隣り合わせであることは避けられない事実。
問題行動の多かった山内が犠牲となり、その次は自分だと感じ始めた。
「笑わないんだな。似合わないこと言ってるって」
120 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
やまうち
「そりゃ似合ってないけど……私だって結構似たようなもんだしさ」
篠原も、けして成績が良いわけではないし、大きな取り柄を持っているタイプではな
しのはら
い。
男女の違いはあれど、似たような立ち位置にいる。
「それに頑張ろうとしてるヤツを笑えないじゃん」
そう言って、篠原は池に対して力強く頷いた。
「私も2年生になったらもっと頑張る。あんたには絶対に負けないんだからね」
「俺だっておまえに負けねーからな」
池と篠原の関係は、良い具合に進展していると見ていいだろう。
この先、この2人に触発されて頑張る生徒も出てくるはずだ。
誰かが前を歩けば、それに合わせて誰かも前を歩く。そんな相互関係が極めて重要だ。
「でさ、篠原」
「ん?」
オレの隣に座る池の声が、違うベクトルで真剣なものに変わる。
「その ―ちょっと、話があってさ。聞いてくれるか?」
「何よ改まって」
「まあ、なんていうか、俺たち喧嘩友達みたいなとこあるけどさ……その……」
121 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
とごと
さく
オレはひよりと目を合わせる。
他人事だからこそ、話を振られている当人よりも先に理解することもある。
もしかしたらこの場で、新しいカップルが誕生するかもしれない。
そういう展開が起こる流れ。
「俺と ―」
「あっ!」
満を持して池が言葉にしようとした直前、篠原が大きな声をあげた。
広いとはいえ狭い学校の敷地内。どうしても周囲は視界に入る。
池の方を向いていた篠原は、その横にいるオレたちに気がついたようだった。
そんな篠原の驚きと視線を追うように、池も振り返る。
そしてオレと目が合うなり飛び跳ねた。
「あああ、綾小路っ」
告白しようとしていたと思われるだけに、その反応は想像以上だった。
「なな、何してんだよこんなとこで!」
「何って……普通にカフェにきてたら問題あったか?」
「そ、そういうわけじゃないけどさ、声くらいかけろよ!気配殺すとかずるいぞ!」
いや、あの状況で声をかける方がどうかしていると思うが。
あやのこうじ
122 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
たぐい
しかもずるいと言うが、先客はこっちだ。
「まさか俺たちの話聞いてたんじゃないよな?」
「2人で何の話をしてたんだ?」
カウンターで返すと、慌てて目を逸らす。
「べ、別になんだっていいだろ?」
そんなオレと池の会話を聞いていた篠原が、別のことで言葉を向ける。
「……え、綾小路くんって椎名さんと付き合ってるわけ?」
こっちが1人でないことを知った篠原からの疑問。
当然、2人でお茶のひとつでもしていれば、その類の話になっても不思議じゃない。
「そういうんじゃない。そっちは?」
「いや違うからね? 池とは別にそんなんじゃないし」
サラッと関係性を否定した篠原。
その態度が気に入らなかったのか、池も後に続く。
「そ、そうだぜ綾小路、勘違いすんなよ? 誰がこんなブスと!」
「はあ? 誰がブスよ誰が!」
「おまえだよ!」
いやいや、何故そこで揉めだす。
123 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
立ち上がった両名は、直前まで良かった雰囲気をぶち壊し睨みあう。
「あー気分悪ぃ!」
「それはこっちのセリフょ。春休みにわざわざ時間作ってやったのに」
「はあ? はあ? はあ? こっちは仕方なく声かけてやったんだよ」
「なにそれ。さいてー!」
りんか
つぶや
2人は席につくと思ったが、何故か喧嘩してどこかへ行ってしまう。
カップル誕生日前から、急転直下だ。
「大丈夫……でしょうか?」
ややひよりもその状況変化に引いた感じで呟く。
「さあ……」
こればかりは、隣にクラスメイトがいた不運を自分たちで呪ってもらうしかない。
願わくば1日も早く仲直りして関係性を発展させてもらいたいが。
「さっき何か言いかけてたよな」
「ええっと、そうでしたそうでした。奇遇ですが、先ほどのお二人の話に酷似していま
す」
酷似している? そんな発言を聞いて思わずビクッとする。
まさか告白関連か? なんてことが一瞬頭をよぎったが、それはすぐに否定された。
124ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
しのはら
りゅうえん
あやのにう
「学年末試験のことで、綾 小路くんにお聞きしたかったことがあるんです」
確かに池と篠原も学年末試験のことを話してたな。
「オレに聞きたかったこと?」
「もし私の推理が間違っていたらごめんなさい。単刀直入にお聞きしますが、龍園くんを
変えたのは綾小路くんですか?」
悪意のない、好奇心の眼差しがオレを見つめる。
思えば初対面の時から、ひよりは鋭い感性の持ち主だった。
「普通だったらどういう意味だ?と聞き返すところだな」
とぼけたフリをして無関係を装う。それがオレの取るべき最善の対応だ。
あえてそうしなかったのは、ひよりの瞳には確信めいたものがあったからだ。
「そうですね。でも、綾小路くんなら深く説明せずとも分かってくれると思いまして」
龍園を変えた。
普通、その言葉だけで大抵の人間は首を傾げるだろう。
それをしない人物は、ある程度状況を理解している者、あるいは変えた当事者。
どうしてそう思うんだ?」
オレはあくまで誤魔化さず、その理由をひよりに聞いてみることにした。
確信を持った理由を教えてもらいたかったからだ。
125 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
側はた
いしざき
いぶき
ちつきよ
「パズルのピースを、ゆっくりと当てはめていっただけです。龍園くんは、綾小路くんた
ちのクラスに執着していました。ですが、ある時を境に表舞台から降りました。表向き
石崎くんの反逆ということでしたが、どうにもブラフのように思えました。龍園くんの側
近だった石崎くんや伊吹さんを龍園くんと絡ませてみて、それも確信に変わりました」
こちらがあずかり知らないところで、ひよりは幾つかの戦略を打っていたようだ。
そして龍園の蟄居に対して不審を抱いた。
「不快にさせてしまったのなら、謝ります。今日この話をするかとても悩みました。踏み
込むことで綾小路くんを怒らせてしまうんじゃないかと思ったからです。真実がどうあ
れ、こんな話を望まないことは、綾小路くんを見ていれば分かりますから」
「つまり、ひよりは覚悟を持ってこの話を切り出したんだな」
日常の雑談をするのとはレベルが違う。そのことをよく考えた上での決断。
「このことが原因で友達じゃなくなってしまったらきっと後悔します。綾小路くん
とこうして肩を並べることが出来なくなってしまったら、絶対に後悔する」
それなら胸の内にしまっておく方がいいはずだ。
だが、それでもひよりは今日、このタイミングで話を切り出した。
「踏み込まなければ、これ以上の進展もないと思ったんです」
「これ以上の進展?」
あやのこうじ
126ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
そう聞き返すと、ひよりはハッとしたように口を開く。自分の発言に驚いたようだっ
た。
りゅうえん
「そう、ですね……今自分で言ってて、ちょっとよく分からなくなってしまいました」
そう言って少し戸惑った顔を見せるひょり。
「あの……Bクラスと私たちのクラスの戦いのことはお聞きになりましたか?」
「結果だけな」
後の詳細は何も知らない。
ひよりは話題を変えるタイミングと、勝ちに至った話をし始める。
「なるほどな。普通に見れば問題のあるやり方だ」
「確かに龍園くんのやり方には問題点も少なくありません。でも、私は今のクラスが上に
行くためには必要な悪も、あるのではないかと思うんです。ずるいでしょうか」
「少なくともオレは否定しない」
褒められた戦いでなくても、後ろ指さされる戦い方でも、クラスに勝利をもたらす。
多かれ少なかれ、そういった人間は社会に必要とされている。
賞賛されない孤独な戦いをするには、不屈の精神力が必要不可欠だ。
「ただ、非常に危険な橋を渡ったことに違いはありませんね。Bクラスからは疑問を抱く
生徒も出てきていますし。ただ、具体的な証拠は出てこないと思います。張り巡らされた
監視カメラの目を掻い潜って、仕掛けているでしょうから」
しようさん
127ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
この学校には多くの監視カメラが仕掛けられている。
学校はもちろん、ケヤキモールやその周辺、その多くが監視下に置かれている。
しかし全部じゃない。もちろんトイレ等にはカメラはないし、個室の扱いになるカラオ
ケルームなども、その対象からは外れている。
一之瀬たちBクラスが声をあげておかしいと言えば、調査の手は入るだろうが、恐らく
はグレー止まり。そこからの発展はまず望めないだろう。
「見事な立ち回りの5勝だな。完璧と言ってもいい立ち回りだったんじゃないか?」
「見事、ですか? 私はそうは思いません。むしろ大きな穴を抱えた戦い方をしたと思っ
ています」
「というと? 6勝以上出来たと?」
「5勝は上出来でした。いえ、むしろ欲張りすぎたと思います。そのために、龍園くんは
非常に危険な戦略を取ってしまったのですから」
ひよりは先の試験をそう分析して振り返る。
そしてどうやって勝ちに至ったのかをオレに話してくれた。
「Bクラスの生徒たちへの執拗なプレッシャーは良しとしても、体調不良を促すような真
似は明らかに失策です。善良な方の多いBクラスだから使った手だとしても、それは許容
できるものではありません」
それを聞いたうえで、オレもひよりと全く同じ感想を抱く。
しつよう
128ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
りゅうえん一
いしざきのいぶき
目の前にいる少女はオレとは全く違う人生を送ってきたであろうことは分かる。
本来なら似ても似つかない存在。
しかし、根本的な考え方や思考など、どこか似ている部分があるのも確かだ。
だからこそ、この話を聞いて浮かんでくる疑問もある。
「ひよりは龍 園が戦略を打つ前にその話を耳にしていた。なのに止めなかったのか?」
「私が助言したところで、それを素直に聞く人だと思いますか?」
石崎や伊吹からの助言よりは耳を貸すかもしれないが、龍園は受け入れないだろう。
相手の考えを認められるわけがないと、鼻で笑って聞き流す。
「確かにな。なら、どうすれば龍園は止まったと考える?」
どこまで考えてそう行動したのかを引き出したいと思った。
恐らく感覚的にひょりは理解しているはずだ。今日に至った理由を。
「彼と同等……いえ、それ以上に実力を持っていて、何より気になる方からの叱責くらい
はないでしょうか」
自分が言っても龍園は助言を聞き入れない。だが、それが龍園も認める存在からの助言
であれば話は変わってくる。だからこそ『オレ』にこの話を聞かせてきた。
「ひより。1つ言伝を頼まれてくれるか」
「オレはあえて、直接何かを明確にするような言葉は使わないことにした。
129ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
ことづて
おもてぎた
そうでなくても十分だと判断したからだ。他の生徒ならともかく、ひよりは今の立場を
使ってこちらを困らせることはしないだろう。リーダーだと認めている龍園が、オレのこ
とを表沙汰にしないことの意味をよく理解しているからだ。
「なんでしょう?」
変わらぬ態度を見せるひよりが、優しくこちらを見つめてくる。
「龍園に、オレならもっと上手いやり方で安全に5勝以上出来た。そう言っておいてく
れ」
「――はい、分かりました。確かにお言葉をお預かりしました。お伝えしておきます」
目を細め感謝するように、両手を軽く合わせて笑うひより。
龍園は石崎や伊吹以外にも良い味方を持ったな。
暴走しがちな3人を、ひよりが上手くコントロールしていけば更に手強くなりそうだ。
こうしてひょりとの学年末試験の話を終える。
「それで……」
普通ならこの辺りで解散となるところだが、肝心なのはこの後だ。
気に入ったのがあれば、ぜひ持って帰って読んでください」
改めて鞄を開け、本を取り出す。
元々、今日はこの話をするために設けられた場だ。
てごわ
かんじん
130 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
「かばん
「でもいいのか? ひより名義で借りた本だろ」
「先生には許可を取ってあります。本当はあまりよくないことなのですが、期日内に戻し
てくれるならと許していただきました」
ひよりは図書室での優等生だろうからな。ちょっとした得があっても不思議じゃない。
しばらく本の話に華を咲かせ、お茶をして別れた後。
「少し評価を変えなければならないみたいだ」
オレはこれまで、ひよりを同学年の単なる生徒、もう少し踏み込んで言えば共通の趣味
を持つ友人としての認識だけしか持っていなかった。
ひよりと別れてからしばらくして、オレはケヤキモールに来ていた恵と合流する。
「……何か用?」
姿を見せた恵は、開口一番どこか機嫌が悪そうだ。
「座ったらどうだ?」
オレはひよりが帰ったことで空いた席に座るよう促すが、恵は椅子を一度見ただけでそ
れを拒否した。まるで汚物を見るかのような目をしていた。
「あたしとお茶してるところなんて見られたら変な噂立つでしょ」
明後日の方角を見ながら言う。
第三者が遠目に見てもオレと話している風には見えないだろう。
うわさ
131 ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5
「噂が立つと問題なのか?」
「問題大ありよ。不用意に異性と接触してたら、すぐに噂が立つってことくらい分かって
おいた方がいいんじゃない? あんた全然分かってないでしょ」
まるでオレが不用意に異性と接しているかのようだな。
「で? 用件はなんなわけ?」
「悪いな、用件は忘れた。思い出したらまた連絡する」
既に、オレが恵に対して行うべきことは済ませている。
めちゃくちゃ
「何それ。なんか滅茶苦茶なんだけどー。……かえろ」
呆れてため息をつき、恵は背を向けた。
オレは呼び止めることもなくそれを見送る。
通して恵の機嫌は悪かったが、それも無理はないだろう。
機嫌が悪くなるように、オレがそう仕向けたからだ。
132ようこそ実力至上主義の教室へ11.5

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